ブイネット教育相談事務所


2007-11-21 外部監禁

_ 外部監禁

朝、家人から知人のAさんの飼っていたウサギが死んだ話を聞いた。ある日Aさんは、吉祥寺のサンロードをプラプラしていると、なんともかわいいウサギを売っていたので、近くへ寄って見てみると、本当に実に愛らしい。見ているだけで、思わずこちらの頬が緩んでしまう。おじさんが「かわいいよ?このウサギ。家の中で飼っても大丈夫だよ。」と言うので、意を決して買うことにした。そのときおじさんがなぞのようなことを言った。

「野菜をあげちゃあダメだよ。このウサギに野菜をあげないで」。

へんなことを言うおじさんだと思ったが、家でキャベツを上げて見るとウサギがとても喜んでモリモリ食べる。「やっぱりあのおじさんは頭がおかしい」と思って、毎日ウサギにたっぷり野菜をやった。ウサギが喜んでもぐもぐ食べるのが実に愛らしい。名前も愛ちゃんにした。

こうして約3ヶ月。家の中で放し飼いにしていたウサギは、大きく丸々と太って、猫より大きくなった。これが跳ねる姿は、ウサギと言うよりガマ蛙のようにゆったり単発的なもので、「ぴょんぴょん」というより、「ドシドシ」と形容するのが相応しかったそうだ。

ところが、つい最近、ウサギが臭いので、お風呂でシャンプーした。バスタオルで拭いたけれどなかなか乾かないので、ベランダに出してかごをかぶせておいた。

しばらくすると、ドタッという音がするので行ってみると、ウサギが倒れて死んでいる。獣医に持っていくと死因は「凍死」とのこと。ウサギは体の芯まで濡れると風邪を引きやすいらしい。

何でこんな話を家人がしたのかわからなかった。

さて、私は大変忙しい。酒を飲むヒマはあっても運動をするヒマはない。おまけに忙しくて頭の中は常にボロボロである。何もせずに1週間ぐらい休みたいが、じっくり休む時間はない。この状況下では究極の合理的な精神健康衛生法が必要になる。それをご紹介する。 

まず、大きい湯船の中で「体操」(水泳ではない)して、次にサウナでストレッチして、サウナを出たところの戸外の椅子で、汗が乾くまで瞑想をする。二三回繰り返す。これを行うと、体と頭が同時にほぐれるので効果が大きい。しかも約1時間ですむ。

ただしこのためには、サウナ室を出るとすぐに戸外に出られる施設が必要である。

幸い自宅近くのクアは、サウナ室を出たところに水槽があり、その脇の扉を開けると、外から見えないようにしつらえてガーデンチェアが置いてある。椅子は6脚あるが夏ならともかく、冬には利用するものは少ない。

ウサギの話の夕方のことである。原稿が書けなくて、夕方早めにサウナに行くとガラガラである。

まずは湯船でたっぷり柔軟体操。次に、サウナでストレッチ。汗だくで外へ出て、裸のままでメディテーション。私は瞑想は慣れているので、数回深く呼吸するとすぐに三昧に入れる。椅子に座り背筋をしっかり伸ばして瞑想すると、頭の中を空白にして、脳内の不純物を排出することができる。大切なことは瞑想中に周囲のことに気をとらわれて中断することがないようにすることである。

さて、深呼吸を終えて、三昧に入ろうとすると、目の前の扉の鍵をいじる音がする。一度鍵をかけてノブをひねると開かないのでもう一度鍵を回してドアを細めに開けた男は、本当に仕事に疲れきった顔をした壮年のサラリーマンである。サウナから出たばかりで意識不明瞭に思えた。私を見ると、男はドアを閉めた。同時に私は三昧に入った。するとその直後に向こう側から鍵がかかる音がするのが聞こえた。しかし、ここで瞑想をやめるのは惜しいのでそのままそれを考えずに続けた。

しばらくして瞑想を解いて、ドアを開けようとすると、やはり鍵がかけられていて中へ入れない。ウサギと同じ外部監禁である。寒空に裸でほっぽり出された。今朝のウサギの話が思い出された。このままどうなるのであろうか。体温はどんどん下がる。偶然係員か他のお客が来るのを待つのか。こういうときはどうするべきか。急に大声を上げるのも恥ずかしい。ウサギは吼えない。

まあとりあえず、目の前のドアを叩いてみた。

すると中で人の気配、ガチャっと鍵がまわってドアを開けると、さっきのくたびれた男。

「あんたねえ、人がいるのに鍵かけちゃあだめじゃないか。監禁未遂で訴えられるよ。」と言うと、まるでいつも口癖であるかのように、

「すまんこってす。」と、何語かわからんようなお答え。

放送禁止用語に免じて笑って許したが、めったにない経験をした。 

動物園は、外部監禁する設備である。