2006-09-24 「ワナ」
_ 「ワナ」
筆者の実家は、地図上で、JR中央線高円寺駅と西武新宿線野方駅を結んだ線上にある。
両駅間の距離は約1700mである。
例の「電光石火」で仕事を出版社に差し戻し、これが帰って来る間の約40時間のブランク。
昼間に病人を訪問すると、生活的なコミュニケーションが取れるので、夕方の授業までの合間、明るい時間に実家訪問。
病人顔色良い。
実家には、狭いながらも庭がある。
この庭は、春夏秋冬花が絶えることがない。地面にも木にも鉢植えにも何かしらの花が咲いている。
病人が退院したとき小振りだったサルビアは、次々と花穂を伸ばし、地にもその赤いラッパを散らしている。
なぜか、今日は,久しぶりで雑草が抜かれている。
するとどうだ。「ジャングル」の中に、新しく赤い花の色が見え隠れする。近づいてみて驚いた。庭の隅の、草や枝や枯れたものや咲き終わった植木鉢の中身の「堆積所」=(墓場)の奥に、見事なまでに渋く赤く鮮やかな彼岸花が、まるで宙を貫くがごとく屹立して、その冠のような姿を漂わせて群生しているではなかろうか。高さ50cm位に茎を伸ばし、およそ30本が絡み付くように、別世界を形作って咲き誇っている。まさに「桃源郷」である。
病人を驚かせようと思って、植木鋏を持って、うまいことポッカリ空いたかがみ込めば入れそうな穴の口から、半身を入れて3本切った。根元はアスパラガスのような力強さだ。そのときついでに気がついた。その辺りには黄色いクロッカスのような花が咲き誇り、その根元は極めて美味しそうなミョウガなのであった。
お互いに絡み合った彼岸花3本を花瓶に差して、病人に、
「彼岸花だ。すごいと思わない?こんなのが何十本も咲いているぜ。」
と言うと、病人は、花のすごさではなく、
「どうしておまえはそういうことを感じることができるのかね。」
と言う。
「ハッハッハ、そんなの当たり前じゃあないか。見ろよこの咲きっぷり。見事としか言いようがないじゃあないか。この庭は本当にいろいろなものが咲いているね。」
母に、「ミョウガに黄色い花が咲くの知っている?」と話しかけると、
「そんなことも知らないの。私は練馬の生まれだよ」と言う。
「あれ天ぷらにしたら旨くない?」
「さあね。八月からずっと咲いているからねあの辺り。なんか知らないけれどみんな勝手に大きくなって育っちゃうんだよ。」
肥やしをやって大きくなったものを、咲き終わると引っこ抜いて「墓場」に捨てる。
ところがこれらが枯れずに再生する。元々肥やしの固まりだから、異常に良く育つ。
今この庭の中央は、信じられないくらい巨大化した里芋の葉で覆われている。その手前には伸び切ったシソの山がある。
彼岸花の茎元の穴のところに行くと、あるわあるわ、そこら中超美味しそうにふっくらとした、まるでキノコのようなミョウガとその花の山である。夢中になってむしる。前の方、彼岸花の根元あたりにも沢山ある。上部より光差し込むそこはまさしく小さな「桃源郷」と言えた。
「ミョウガの親葉の生え振りと、彼岸花の生えぶりは似ておるわい。対向発生しているのだな。」と納得して、両手一杯のおいしそうなミョウガを穫る。
これをキッチンで、花を落としてきれいに洗っていると、やっぱりやられたらしい。
蚊である。*。超かゆい!
ミョウガを洗いながらも痒くて濡れた手で掻き始めてしまう。
「超痒い!」
「大げさな!慣れてないんだね」
そんなことはない。しかしそれにしても痒い。
「うるさいな。かゆみなんて初めのうちだけさ」
この人は,男の子の伸ばし方の本を読んだ方が良い。
ウナコーワを塗っても痒い。それに蚊なら、特定箇所がふくれて痒みを発しそうなものだが、特定の場所が痒いのではない。右腕上腕が幅広く痒いのだ。徐々に赤く膨らんで来た。右腕中央部が真っ赤である。ついに母も認めた。
「それは毛虫だね。いるんだよ。今年は。」
私は知っていた。山茶花や椿、バラに毛虫が付いていることを。
しかしこれほどとは思わなかった。
「桃源郷」が目に浮かぶ。
私には後悔はない。
あれは、自然のワナにしては見事すぎた。
ワナにかかることは一種の快感である。
だが、大衆に「夢」を見さすこと、そこには「ワナ」を仕掛けてはならない。
_ (問い)23日午前2時。筆者は*印で筆を置いて何をしたと思うか。次のうち最も適切なものを選べ。(灘筑駒型)
_ ア かゆみがこみ上げてウナコーワを取りに行った。
イ ミョウガの天ぷらを作って食べた。
ウ 睡魔に襲われて約30分間眠った。
エ キーボードにアルコール飲料をこぼしドライヤーで乾かした。
オ サウナで汗を流した。
_ 答えは次回。
読者水準アンケート。コメント欄で推論を述べて赤っ恥をかくのも可。