ブイネット教育相談事務所


2007-08-13 SEOUL紀行ー連載第26回

_ SEOUL紀行ー連載第26回

素心は、階段を下りて地下に入る店だ。しかし店の中は、天井に近い椅子席と床の上の椅子席と平床に座る座席の3種類の空間があるのである。

黒田さんの案内で、我々は左奥の狭い座室に入った。

黒田さんは店のなじみで、手際良く注文をし終えた。実は後で分るのだが、ここは昨日の焼肉屋よりはるかに美味しい家庭野菜料理の小鉢が沢山並ぶのであるが、野菜だけだとどこか物足りないのでちょいと鯖焼きだけ注文しておくのである。黒田さんの行動はどこまでも見通しをもったものなのである。後でこの鯖を氏が食するのを観察しつつ自らも箸で挟んで口に入れたが、この鯖は焼き具合がなかなかサバ!なのである。氏は我々がインサドンで買い物予定だと知っていたわけではなかった。単なる偶然とは思われない洞察力の深い人である。

私はかつて見たことがない人を前にして、必死にその印象を抽象化しようとしていた。しかし、この人はどの範疇をもかいくぐった。強いて言えば、「書き屋」ということなのであるが、私の脳裏に浮かんだ言葉は、意外なことに、「人生の先輩」という言葉なのである。私は、とりあえずこの形では氏のもとを逃げ去りたく思った。なぜか恥ずかしいことこの上ないのである。

黒田さんは私の質問に的確に答えを返した。

「韓国の人って、言っちゃあ悪いですけれども日本人よりもさらに単純ていうか純な人たちですよね」

「この国の人は大雑把なのです。逆を返せば日本人は細か過ぎる。この国では箸置きを使わない。箸は机の上にべったり置く。取り皿もない。直接口に運ぶ。あんまり広範囲の他人を見ない。道で良くぶつかることがある。あまり周囲を見ていないことがあるということです。」

この人は武道の心得もあるのではないか。

「それでも、20年以上もこの国に滞在し続けていらっしゃるということは、この国が、日本を見るという意味でも飽きない国と言うことなのですね。」

家族を東京においたまま単身赴任し続ける男は、初めてニヤリと笑った。

「まっそう言うことです」

私はこのあっさりした返事の含蓄が深過ぎて手前勝手に目くるめく思いになる。

「焼肉というのは、上流階級の食べ物ではありません。」

それはそうだろうと私も思う。

「上流はやっぱり魚を食べるのです。」

そりゃそうだろう。体がもたない。

私は突然なぜか日本に帰ってお好み焼きが食べたくなる。

しかし、それも、そもそも韓国人の発案によるものかもしれない。

そもそもキムチ制作に欠かせない唐辛子は、日本から伝わったものだという。

双方のカルチャーは、「相違点」よりも「共通点」を探った方が面白いかもしれない。

私は、この瞬間韓国人が大好きになっている自分を発見する。

我々は血のつながった「兄弟」である。

次に生まれ変わったら、できたら韓国人女性と結婚してみたいと想像する。

私はもう無理だが、そもそも結婚とは「範疇外」とこそするべきもの。

今こそ日本人が韓国人とよりいっそう結婚するべきである。

双方の「利益」は、過去における「天皇家」以上のものがあるにちがいない。

失礼。