ブイネット教育相談事務所


2008-12-10 「禁句」

_ 「禁句」

平均的日本人が、日本の学校教育並びに受験ヒエラルキーを目指しての勉強の大半が「ほぼ意味がない」と気づくのは、普通いったい何歳ぐらいのことであろうか。

奥手であった私の場合は、20歳、2浪後に大学に入学した時だった。私は、「たかだかこのような環境でこの程度の人材を用いて教育を与えるだけなのに、やけに努力を要求する難しい試験を課す。それにかくも長き時間をとられるなんて、自分は学歴社会にまんまとダマされていた」と強く噛み締めていた。日能研の高木氏がご子息を下から上まで成城学園で済まそうとしたのは実によく分かる。私も成城に住んでいれば、そしてもし成城学園に金持ち子弟が多くなければ、同様のことを志したに違いない。

時代下って、この件の認識につき、今の子は異様に早い場合がある。

それにしても、今様社会では高校2年くらいまでに、現状日本の勉強が「意味がない!」と喝破して、ただ合理的に入試合格を勝ち取るか、別の生き方を模索するかのどちらかを始めるようでなければ、ちょっと「オツムが弱い」といったところが「フツー」であろうか。私ならここでSFCを目指し、ダメなら外国へ出る。

S君は、両親の離婚もあって苦労を知る中3生。頑張ったが要領の良い女子に及ばず、内申を少しずつケチられて、結局中途半端の換算36。家庭の事情でこれに応じた都立に行くしか選択肢がない。

S君は言う。

「僕はもう、日本の学校が嫌になりました。ついでに言えば日本が嫌になりました。つまらない。くだらない。バカバカしい。やってられない。心とアタマに悪いと思います。」

教育コンサルタントの私には、「学校をやめたい」という相談も多く寄せられる。どうしても我慢できずに退学して大検資格を取るなんて言うのは私立公立に関わらず数多く目にして来た。

これらの子どもたちのほとんどは、社会的に物を見る能力の高い者たちである。つまり、物の実勢価格をリアルに知るタイプである。つまり、「マセ」ているのである。

苦労人のS君もマセていた。彼には学校や塾で行われていることがつぶさに客感化されてしまった。そして、こういう生徒は高2までに中退を選択する可能性が大だ。そこで私たちは、ストレスの少ない都立工芸などの技術を与える学校を模索した。

そして、私は、教育コンサルタントとして、とんでもない提案をした。

「都立農芸高校というのがある。これはオール3以下でも行ける学校だ。しかし、この学校は、現代東京で最もストレスを与えない学校である。何せ、日に3時間しか教室での授業がない。残りは体育芸術、そして、長靴を履いて畑で農業研修だ。それも学校の目の前だぜ。しかも君のうちからチャリで5分だ。入学金は確か6千円くらい。月謝も1万円以下。交通費ゼロ。通学時間ほぼゼロ。校則ゆるくバイトも可。それよりこの学校ならではのオモロいバイトがあるかも。好きなことをする時間も充分ある。それで高校卒業資格がもらえる。それにちょっと気をつけていれば君は学年トップで、推薦入学や留学も可能だ。次に面白いことが見つかればいくらでも変換可能だ。」

それでも彼は中3生らしく悩んだ。

「いったいこの決定を、どうやって頑張っている友達や塾の先生に伝えるのだ?」

彼は毎日面倒を見てくれる超安い私塾に通っていた。この塾頭を彼は尊敬していた。やっとのことで切り出した。

「先生、僕いろいろ考えたんですけれども、僕はもうこのオモロくない日本の学校の勉強に我慢して行くことができないと思います。だから、自宅近くでストレスのない農芸高校に進みたいと思います。」

進学塾なら必死になって引き止めるところだが、この塾長はなかなか人物だった。

「僕もね、最近、偏差値を考えない進学はかえって良いような気がしていた。」

と、塾商売上がったりの「禁句」を平気で口にしたという。

それにしても、S君の自己紹介カードの趣味の欄には驚くべき言葉が書かれていた。

「焚火」である。。

これは私のせいではない。焚火のせいである。