ブイネット教育相談事務所


2008-08-15 講習地獄

_ 講習地獄

塾の夏期講習に通う生徒たちの疲れが色濃い。生気のない顔をして、ゲームのやり過ぎと同じである。目も落ち着かずやたらキョロキョロする。小学生で一日授業が7時間、その上で宿題が5時間分で連日確認テスト。居残りもある。すごいのは中3の合宿7日間で、一日14時間学習。まあ中学生なら良いかもしれない。私も中3の夏は一日12時間近く机に向かっていた。

しかし、まだ自らの意志で学ぶわけではない小学生は長期に勉強漬けされると「変調」を来す。反応がおかしくなる。いつものように集中できない。

自ら希望してサピに通う生徒に話しかける。この生徒は夏休みに入って1週間で元気がなくなっって授業にならない。無理な暗記学習のやり過ぎで消化不良になっているのである。

―キミ明らかに状態悪いよ。最近遊びとか運動とかしている?

―サピの宿題が多くてそんなヒマはありません。

―全部やらないで適当に済ませればいいじゃあない。

―やらないとほかの人に負けます。

―そんなことはないよ。せめて無意味な国語はサボれば。

―そんなことできません。サピに完全について行ければ志望校に合格するそうです。

―でも実際今のキミはボロボロで、前にできた問題までできなくなっているではないか。書き方もいいかげんになって、明らかにストレスの溜まり過ぎだよ。お盆休みはどうするのか?軽井沢でも行ってきたらどうか。

―サピの先生が、「勝つものはお盆も遊ばず毎日12時間以上勉強する」って言っています。

―サピの先生は結婚できないね。お父さんは休まないのか?

―父は旅行に誘いましたが、ぼくが断りました。

―ダメだそんなの。お父さんにもう一度頼んでどこかに出かけなさい。これは歴30年の教育コンサルタントの命令だ。医者の言葉と同じだと思ってもらいたい。いいか、行くとしたらどこへ行きたいか。

すると、生徒は急に目に涙を溜めて、

―どこでもいい。ぼくは汽車に乗ってどこか遠くに行きたい。

殺虫剤でも死なないゴキブリみたいに平気な生徒なら良いが、個々の生徒の精神衛生を気遣わずに、闇雲に多くのものを詰め込む。この延長線上には、本質的な勉強嫌いがある。一流校が、やり過ぎで伸びなくなった生徒を取りたがらないのは当然である。そして、たとえ受験に勝ったとしても、子供の時の純真な心の成長が妨げられたことの代償は将来あまりに重いことだろう。新聞は書かないが、父親を刺し殺した少女の通う学校の教育内容は推して知るべしである。受験はただ量多くこなして勝つものではない。真の意味でアタマが良くなって勝つものである。自ら進んでやるのではない学習を連日行わせれば頭がオカシクなる子どもが出るのは明らかである。これを商売にするのは、法的には合法らしいが、倫理的には明らかに犯罪である。