2008-10-21 「不良」
_ 「不良」
どうせアルコールを飲むのが目的なら、お通しなしで最低料金で飲みたい。
都立校育ちなら誰でも考えることだ。
なんちゃって西荻北口いつもの店。
焼き鳥、揚げ物を主体とした調理場をカウンター40席がぐるりと囲む。
常連のバンソコメガネ以下、50代以上のオッサン、ウヨウヨ。
このカウンターで、奇しくも最近、ここ数週間前から、働き過ぎた中年が不良化するにはどうしたら良いかの議論が盛り上がっていたのである。
「不良」というタイトルの、おそらく地方都市カルチャー向けの雑誌の提示もあったりして、考えることもバカらしいこの世の中で、人生半ばをはるかに過ぎた男たちが、「不良」になるための条件をあれこれうんちく語り合うのである。
こうしたある日、やや日数が空いてこのカウンターに止まり木すると、
「クロカメと炭酸、1、1氷!」の声のカウンター内変態刈りの声の直後に、常連二人に挟まれて、もう我慢できないと言った様子で、まるでピストルを脇腹に突きつけるような口調で、
「松永さん、あんたから提案された不良中年の考察、もうオレたち昨日から止めることにしましたよ。オレたちオレたちなりによ〜く考えたんだけどさ、とどのつまり、「不良」になるには、まず家族より自分を優先させる精神がなければならないじゃないかということになったのです。そうしたら、同時に、あんた以外の全員が「家族がない」ことが判明したのです。つまり、あんた以外の全員、みんな独身なんだよ。そのアンタが、不良になることの問いかけをするのは、「資格がないのに営業する弁護士」、「年金生活者を嗤う金満家」、「無能な大学教授」、「不良債権に税注入する政治家」と同じ、ということになったんだよ。」
「ちょっと待ってくれよ、だとすれば、「不良」になるには、不良でない状態、つまり、逆に家族がいる状態が前提ということにはならないのか。独身にふマンな男は、すでに「不良」だ。独身には「不倫」がない。私が話題にしているのは、やや罪悪感の伴った日常性からの逃避だ。だから、不良になることを語る資格がないのはむしろキミたちの方ではないのか。そもそもその提案をした私を「たわけ者」として扱うのは極めて正しいが、そのとき密かにストイックな自分を感じちゃったりしない?」
「何とおっしゃるウサギさん。世界のうちであなたほど、西荻でヒロサワさん以外に、ストレスのない人間はいないとは、カウンター内のヤギアンテナすらも、「ミエミエ過ぎちゃって困るわ〜」なんちゃって言っちゃっています。だから、あなたには、他人を「ストイック」とか「アナキスト」とか呼ぶ資格がないのです。」
断崖絶壁孤独。
これが「現実」の会話なのであるから世間は恐ろしい。
「ところで、こうして生ガキのひだひだを啜る男は一種の不良なんでしょうか、それともそうではないのか。もしレモンかけても?」
「不良でしょう!」
単に酔っぱらっているだけなのである。酔っぱらっているときは、お互いの「バカ」が許せる。そして、それでいいのだ。我々はここでだけ遭っている間柄なのである。
男が「不良」に憧れるのは、日常=世の中がやっていられないと感じるからであろう。西鶴しかり、山東京伝しかり、色川武大しかり。
―もうけっこうです。営業外の労働は堅くお断りします。とにかく、タンパツレバー一々塩ですね。
―いや麺単品一発、塩でなくてドラドラで。
―いいかげんにして下さい!うちは飲み屋です。酔っぱらい相手の冗談屋ではありません。
―アンタ最近不幸なの?
―やめて下さい。考えないようにしているんです。
最近私のことを、「あー言えば、Joゆう」と呼ぶ者が多いが、これはゲラゲラ、ゲラのせい。