ブイネット教育相談事務所


2009-03-14 東大合格者数報道

_ 東大合格者数報道

3月13日付の夕刊フジで、東大合格者数につき、「名門凋落」が一面に掲載された。

この記事は、「大学通信」の「ゼネラルマネージャー」の安田賢治氏の言説を記事化したと思われるが、大きな齟齬があり、そのことをここに批判したい。

先ず、前後期の合格者総数ではないのに、前期発表のみで、開成(−56)、灘(−13)、麻布(−2)を「名門凋落」と報じた点である。後期で約百名の合格枠があるのと、毎年十名以上の合格者数の上下変化があるので、麻布や灘と開成を同列に比較するのはナンセンスである。するべきは、開成合格者数の国立大医学部の集計値を掲げることであるが、それはここにはない(東大理科一類が国立大医学部より偏差値的に下回るのは常識)。また、記事末尾にもあるが、各県公立高校の健闘が目立つのに、「ゆとり教育の弊害」と前面に掲げるのは完全に矛盾。たとえ「ゆとり教育」下でも、開成高校に合格するレベルの受験者は、資金的に有利で、進学塾を充分に活用して、「ゆとり教育」とは一線を画していることへの言及もない。上級高受験組には「ゆとり教育」には関係がないことへの考察が全くない。また、開成高校入学者の東大合格者数への分析もない。ここには純粋私立一貫校の美化が意図的に盛られているとしか言いようがない。安田氏は、「東大を見るかぎり、不況の影響は全くない」と述べたと書かれているが、そんなことは「上級層」にとって当然のことである。

私はこのような言説を、大衆の「味方」であるはずの、夕刊フジが真に受けて掲げてしまったことを誠に残念に思う。

実態は最上級高の生徒たちが、東大学歴に疑問符を掲げつつある点であるのだ。

東大入試が易化しているのは受験界の常識である。易しい試験でオモロないから、より優れた学生が医学部に流れる。このことに全く触れない夕刊フジ記者の安直さは嘆かわしいかぎりである。繰り返すが、塾や家庭教師を活用する「上級富裕層」にとっては「ゆとり」は何の関係もない。ここで語るべきは、生涯高賃金の確保を目指す層が、東大をすでに見切りつつある点であろう。

私は、大新聞同様、夕刊紙までもが、安直な情報による報道で、ただ単に読者を惹き付けるために「東スポ」化することを危惧する。見出しとして掲げるべきは、「開成激減―上級高の東大受験に異変」だった。

時代は、東大合格者数ではなく、TKTH(東大京大東工大一橋大合格者数を卒業生総数で割った数値)であることを評価基準にするべきなのに、この単純なジャーナリズム魂こそ自己批判するべきではないのか。これでは小沢や漢字検定とグルの文科省を批判する資格が全くない。

読者は必要以上のセンセーショナリズムにそっぽを向きつつあるのだ。こういったことを繰り返すことにより、マスメディアは、日本株式同様、確実に下降線をたどることに自覚的でない。

かつて警察は、必要以上の交通取り締まりによって、庶民の信用を失墜した。庶民の意見を代弁するはずの夕刊大衆紙までもがこれでは、テレビ同様、やればやるほど読者を失うことに繋がることに自覚的でない。

ゆとり教育に問題があったのは事実であるが、学校教師の指導力の絶対的な下落に苦しむ子どもたちの現状について踏み込んで書くことこそがメディアの役目ではないのか。

以上当然のごとく「冗談」で書いた。