2005-12-10 小さな勝利の物語
_ いや昨今の入試は本当に多彩である。
以下は実名が分からない様に創作的に書くのでご注意。
ここに30代の一人の男がいる。
男は、高校時代の肉体的挫折の上に、3年も浪人して、たった一つ合格した3流私立大学の経済学部に進学したが、これも止むなく中退した。生活のための種々様々のアルバイトに明け暮れ、そもそも経済学に全く興味がなかったことの結果であった。この、実に体格に恵まれた男の、バイト体験の核心的な答えは、「屋根の下で仕事がしたい。」だった。
25歳を過ぎたあるとき、男は自分に教育の才能があることに気づいた。何せこれまで苦労のしっぱなし、勉強に困っている子供の気持ちが実によく分かるというのだ。
男は自分で小中学生相手の塾を興した。
この塾は、開塾5年ばかりで、あれよあれよと地域の評価を受け、年々益々成績が優秀な子が入塾して来るのだそうである。
すると、親達が訊く、
「塾長の最終学歴はどちらですか?」。
このときに、大学名を出すことも、中退歴を述べることも、いずれの場合も大変苦しい。普通だったら、誰もが使う「早大中退」と口にするところだが、この男は正直でそれが言えない。生徒には抜群の信頼がある。ないのは学歴だけ。
てなわけでこの男、とある国立大学の社会人入試枠に目を留めた。本気で学び直そうというのである。ところがこの男、少しばかり賢かった。塾教師心得の参考として読んだ本の著者の松永に相談に来たのである。松永は実は小論文面接入試で入れるのが最も得意という噂がある。
授業5回。私は、小論文構成術、面接対応マニュアルメソッドを授けた上に、例によって、小論文のテーマを予想した。私は、小論文出題予想対策に自分以上のものはまずいないと自負している。小論文入試の極意。それはすなわち本年度の出題予想である。はっきり言って、医学部はカモ、早稲田は九分通り、慶応は50%。その他は、ほとんど、5例
示すと、その中に入ってしまう。都立校の推薦入試などは毎年大変美味しくいただいている。
ともあれ毎回、男は実に良く復習して来た。
観点の抽象化とその再構成に欠かせないキーワード。過去5年でも遡れば、誰にでもそれは容易いこと。しかし面倒くさいのでみんなそれをやらないだけだ。
さて社会人枠の入試というのには、彼以外には、若くて再起を期すが妙に元気のないもの、30前の元気なお姉さん、60過ぎの定年退職したヒマなオヤジ達が応募するのだそうだ。
募集は「若干名」。抽象構成法を知らずに、インタビューの極意も知らない連中。敵ではなかったようだ。
彼は合格した。初めて第一志望の、それも胸を張って名乗れる国立大学の教育学部に合格した。
苦節実に18年。涙をこらえた彼の電話の精一杯のユーモアは、
「来年から僕は、学割で映画を見ます!」
だった。