2009-07-22 洗脳
_ 洗脳
夏期講習料の納付締め切りを前に、「サピックスをやめたい」という相談が増えている。
その理由がちょっと面白い。
面接で、「このままでは志望校合格なぞ先ず無理。」と強く言われたからとのこと。この生徒に実際志望校の問題をやらせると、充分合格の見込みがあるにもかかわらずである。
模試における合格判定偏差値が甘いサピがこういう発言をするのは面白い。これは夏期講習参加人員を確保することを裏に持ったレトリックであると思われる。
私はかねてより、サピックスは暗黙のうちに、以下の作戦をとって来たと思う。
サピは母親を脅かす。その文言は、吉祥寺でも、練馬でも、自由が丘でも全く同じ。
「もし今やめたら、ヒドいことになりますよ」。
「もしこのまま通い続けると絶対に合格します」ではないことに注意を喚起したい。もし、「もしこのまま通い続けると絶対に合格します」と言えば「詐欺」になる可能性があるが、「もしやめたら、ヒドい結果になりますよ」ではぎりぎり「詐欺」にはならない。
女性を不安にさせる戦術。女性は本性的に、不安になればまず言うことを聞いてしまう。私は95%の女性がこの戦術に引っかかるのはエステや健康器具と同様と思う。女性は不安と寂しさには勝てない。
どの進学塾も多かれ少なかれ同様であるが、サピックスは全校でこれが徹底している。上からの指示か圧力である可能性が高い。小学校低学年から前倒しで知識の詰め込みを行うサピックスは、小61学期には入試に必要な課程をほとんど終了してしまう。すると、夏休み以降に「離脱」して、模試だけを受けて、後は御家庭で志望校向けの自立的な対処を行って経費を節約しようする親が多く出る。また、これ以上サピで子どもが疲れ過ぎるのも許容できないと考える親もいる。
サピに限らない。どこの進学塾でも、二学期以降志望校を限定した対処を掲げるが、実際はテキストの60%以上が共通である。志望校対処の中で最も重要なのは、過去問国語記述に関する指導であるが、これは1対多ではまずできない。ましてや中高一貫公立校の記述対処なぞで切るわけがない。だいいちそんな能力がある教師を、サピの標準的な給与水準で多く確保できるわけがない。
でも、もし2学期以降、もしくは冬休み以降、生徒が来なくなれば、先行投資をして拡張政策の塾の経営は苦しくなる。最後の最後まで、冬期講習まで、御家庭からカネをむしり続けなければ利益が薄くなる。そんなことは、その間も膨らんだ従業員に賃金を払い続けるのであるから当然のことである。
これまでサピは、「このままでは志望校合格は先ずないでしょう」と母親を不安にする戦術によって、入塾者を確保し、「今辞めたら入試は絶望的だ」と子どもを脅かすやり方で、顧客を確保して来た。思うに不況下、それが効きにくなって来た焦りから、自然と脅し作戦に力が入っていると思われる。
もはや麻布を初めとする有力進学校で、サピなどの進学塾で無理に力をつけた生徒の入学後の伸びが悪いから、できるだけ採りたくない意向であることは、東大進学率の低迷化でも明らかだと思う。私に言わせれば、中学以降順調に成績を伸ばすのは、どんな進学塾に通っていようとも、自立的に学習する、そもそもできる生徒である。つまり、できる生徒を育てるより、そもそもできる生徒をどれだけ含有するかが課題なわけである。
もしこの考察が正しいとすると、上位クラスにはいないが、入試成功を願うものや、最早知識やテキストは充分であるから後は自分でそれをこなして真の実力をつけようとするものは、とっとと塾をやめて自分なりの学習計画を立てて勉強することが正しいことになる。
来春以降、あたかもかつてサピ高橋がTAPから離脱したかのごとく、サピの有能教師たちが離脱しようとする可能性がある。でも上位のごく一部の経営陣はそれでもかまわないであろう。何しろ彼らはもう引退しても充分なだけのカネを稼いでしまっているであろうから。
私は、教育相談の仕事上、首都圏で、いまだかつてサピックスほど多くの「犠牲者」を出した進学塾を他に知らない。
個人塾ではなくて、チェーン店塾で、上からの指示で生徒を「洗脳」するのはどうもいただけないと思うが、いかがか。サピでは、上位αクラスの生徒は、廊下を歩く時、下位クラスのものを蹴散らすように歩くという。「冗談」を専門とする私からすれば、単純な洗脳に引っかかるバカが「優秀者」であるというのは心から笑えることだが。