2005-06-23 古本屋
_ 日曜日の午後、盛岡の生徒と昼食をとって家へ帰る途中、馴染みの古本屋の廉価版コーナーに東京創元のバルザック全集第21卷『ルイ・ランベール/村の司祭』の新しいものが出ているのが目に入る。手にとって見ると500円である。この前早稲田の小説家志望の学生が高田の馬場で見つけてあつらえて来た旧版が20冊揃いで13000円だったから、一冊あたりにしてみてもこちらの方がはるかに安い。家にも同じものがあるが、とかく精神的に行き過ぎの感がある仏文学生に『ルイ・ランベール』はぴったりなので、自慢の意味もあって渡してやろうと買うことにする。新しいものは3800円もするのだ。するとその隣に、インシュリン療法の権威で、名医の誉れ高い平田幸正氏の『医学を志す』(篠原出版)が、なんと200円で出ている。医学部受験浪人の生徒の孟武伯君(あだ名)に読ませようとこれも購入。さらに見ると、良い本を持っていたものが大量に本を始末した直後と見えて、買いたい本が安く沢山出ている。これはこの古本屋のオヤジが抜けているのか、客を引き付けるための戦略なのか。筑摩書房刊の『夏目漱石全集』の別巻が300円。中を開けると、和辻哲朗が書いた「漱石の人物」が最初に入っている。これも買うことにする。以上3册で何と1000円である。えらく得をした気になってホクホクして店の中に入ると、オヤジは奥で老人と話している。奥さんが勘定台にいた。ここで、私の天国耳に、奥の会話が入って来た。相手は古本屋仲間であるらしい。この店が流行っているので話を聞きに来ているようだ。
「きちんと価格設定をすれば、かえって売れない時代だ。いいかげんさが必要みたい。」
仕入れ値はただ同然であろうから、これは納得できる。しかも客もこの通り喜んで買っている。私の仕事には参考にならないが、妙に深く胸に残った一言であった。
家に帰って、早速和辻の漱石山房木曜会の描写と奥さんとの不仲の記述を共感して読んだ。久しぶりで味わう高級雑文に満足。なぜか、余計なことだが、古本屋のオヤジの笑顔を思い浮かべた。